大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和54年(ラ)121号 決定

抗告人 川島宏一

相手方 川島清司 外七名

主文

一  原審判を取消す。

二  本件を大分家庭裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨は主文同旨であり、その理由は別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、一件記録によれば、原審判は、分割の対象となるべき被相続人川島清吉の遺産が原審判の別紙第一ないし第三の各遺産目録記載の物件であることを前提としているものであるが、一方において、同別紙第二遺産目録中番号一〇、一二ないし二一の各不動産が被相続人清吉から抗告人へ生前贈与された物件であり、その評価額は抗告人の法定相続分を上迴ることを認定しながら、同時に右生前贈与を受けた不動産の取得に固執しないという抗告人の意思に基づいて、右生前贈与の不動産中の大部分を相手方らに取得させると共に、抗告人に対し同別紙第一遺産目録記載の不動産の所有権を与えていることが明らかである。

しかしながら、一般に、生前贈与等の特別受益は受贈者である相続人の所有財産であり、分割の対象となるべき遺産の範囲に属さないものである。のみならず、遺産分割に当り、受贈者である相続人において、特別受益に拘わらない旨の意思を表明したからといつて、直ちに特別受益分が当該相続人の財産から離脱し、被相続人所有の遺産としての性質を帯有すべきいわれはない、と解すべきである。

これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、原審判別紙第二遺産目録中番号一〇、一二ないし二一の各不動産は抗告人の特別受益した物件であるから、抗告人がその取得に固執しない旨表明したからといつて、抗告人の右の意思表示の内容につき特段の解明を与えることなく、それを分割の対象である遺産であると即断することは許されないといわなければならず、この点において原審判は違法たるを免れない。加うるに、抗告人の特別受益分はその法定相続分を上迴るのであるから、たとえ現実の遺産分割の在るべき姿に背くからといつて、遺産である同別紙第一遺産目録記載の不動産等を抗告人の所有とする余地はない、といわなければならず、この点においても原審判は失当であるということができる。

しかして、抗告人の特別受益分を分割すべき遺産の対象としない場合において、具体的な分割の内容が原審判とは自ら大きく異ならざるをえないことは明白であり、また、遺産分割の対象となるべき原審判別紙第三遺産目録記載の債権等の処置、相手方川島香の特別受益分の処置、自己の特別受益に拘わらない旨の抗告人の意思表示の真意確認、その他諸般の事情について、更に審理を尽す必要があると認められるので、抗告理由について判断するまでもなく、原審判を取消した上、本件を大分家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 鍋山健 足立昭二)

遺産目録〈省略〉

抗告理由書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例